文才に恵まれますように…

文才に恵まれたい

市内とマクドナルド

小学生の頃、仲間内の数人とお小遣いをためて広島市に行ったことがある。

 

広島県という県は【広島市と愉快な仲間たち】って感じで

広島市以外広島じゃないのって、もう私以外私じゃないのみたいなゲスを極めたような雰囲気が漂ってる。

 

老いも若きも広島市に憧れ県民はこぞって広島市を目指す。

そして広島市の、それも1番賑わう中心部のことを「市内」と言う。

それが広島という県だ。

 

そんなこんなで当時、広島から遠く離れたくそ田舎に住んでた俺たちは例にならって広島市を目指すべく旅立ったのであった。

 

当時バスと電車を乗り継いで、確か片道1000円くらいの交通費がかかったんで、往復するとなると交通費だけで2000円がなくなる。

子供料金だとしても往復1000円だ。

 

小学生にとっての1000円はかなりの大金である。

恐らく当時1000円あれば1ヶ月は軽く過ごせたであろう。

 

しかし俺たちは市内に行きたかった。

どうしても市内という世界を堪能してみたかった。

 

貯金箱からお金を出す。小銭ばかりだったけど2000円くらいはあった。

そして仲間と共にバスに乗ったのだ。

このバスは俺たちを未知の世界に連れて行ってくれる。

俺たちの心は自ずと高ぶっていっていた。

 

そしてバスを降りると今度は電車に乗り換えだ。

ここで補足しておくと、俺の地元の町は駅がないくらいのくそ田舎なので最寄りの駅に行くのすらバスで30分くらいかかる。

単純な距離だけではなく交通の便でも広島市というのは遥か遠い地だった。

 

なので俺たちはみんな電車に乗る機会なんてほとんど無いに等しかった。

仲間の中には初めて電車に乗るというヤツまでいた。

当時はまだ自動改札なんてものは無かったので駅員さんにキップを切ってもらい改札をくぐる。

 

駅員さんにキップを切ってもらっただけなのに、少し大人になった気がした。

 

そして電車に乗り十数駅・・・ 俺たちはついに憧れの市内へと降り立ったのだ。

 

眼前に広がる風景に俺たちは絶句した。

ビル、そして人。

地元では決して目にすることのない風景が広がっていた。

 

地元なんて見渡す限りの畑。人なんてのもほとんど歩いていない。

遠目に人がいるって近づいたらカカシだったってこともざらだ。

 

それがここはどうだ。見渡す限りの人やビル。

俺たちはその風景に圧倒されてしまっていた。

それどころか、ここに来たことを少し後悔してさえいた。

俺たちにはまだ早すぎたんだ…。 足が震える。

 

全員がそう思っていた。

先ほどまでのテンションが嘘みたく、全員静まりかえっていた。

 

誰かが口を開く

「これからどうする?」

 

時間はまだ午前中の早い時間。

なるべく長く市内を堪能したかったから早起きしてきたのだ。

しかし、俺たちは大きな失敗をしていた。

 

市内に来ることが目的となってしまっていたため

市内に来て何をするかまでは考えていなかったのだ。

 

更に言えばくそ田舎のクソガキ集団の頭では市内でできることなんて想像できるはずもない。

三人寄れば文殊の知恵なんて誰が言った。そこにいたのは紛うことなき烏合の衆だった。

とりあえず、野球やおにごっこはできそうにない。

かくれんぼなんてした日には永遠に帰れなくなる気さえした。

 

そして田舎民の小学生達が、その頭を必死に絞って出した答えが

マクドナルドを食べる」だった。

 

笑わないでほしい。

何故だかは知らないけど当時の俺たちの頭には

「都会=マクドナルド」という訳のわからない等式が出来上がっていたのだ。

 

しかしマクドナルドが何処にあるかはわからない。

今思えば、降り立った広島駅にもマクドナルドは入っていたんだけど

くそ田舎の小学生だった俺たちがそんなこと知っているわけがない。

 

「まあ歩いてれば見つかるでしょ!」

 

そう良いながら、まるでコンビニでも探すかのようにマクドナルドを探す。

そして当然のことながら歩いているだけでマクドナルドを見つけられる可能性は少ない。

 

行けども行けども見当たらないマクドナルド。

何なら都会なら数十メートルおきくらいの間隔でマクドナルドがあるもんだと思っていた俺たち。

誰も口にしないが、誰しもが思っていただろう。

 

もしかして都会でもマクドナルドってそんなにないのでは?

 

そんな矢先、俺は見覚えのある風景に出くわす。

実は俺にはアドバンテージがあったのだ。

祖父母宅が広島市内にあり、中心部にたまに遊びに連れて行ってもらっていたのだ。

そしてお昼にマクドナルドを食べさせてもらったこともある。

 

勝った。俺はその時確信した。そして大きな声で仲間に言う。

「俺、ここ来たことある。」

 

先ほどまで泣きそうな顔で歩いていた仲間達の表情に期待に光が灯る。

「じゃあマックは、マックはわかる?」

まるでプレゼントを貰う直前の子供のように目を輝かす仲間達。

 

「わかる!」

 

その瞬間、歓声があがった。

砂漠を彷徨っていたら突如、オアシスの場所を知っている者が現れたら誰だって歓声をあげるに違いない。

それと同じことが今ここで起こったのである。

 

それから多少迷いつつも、俺たちはマクドナルドに辿り着いてハンバーガーとポテトを食べたのである。

 

明日学校で「市内に行って帰ってきた」だけの集団から「市内に行ってマクドナルドを食べて帰ってきた」英雄へとクラスアップした瞬間だった。

 

と、まあこんな思い出を先日の休みに市内をブラブラしながら

昼飯も特に食べたいものないしマックでいいかって

たまたま小学生だったあの日に行ったマックに入ったので思い出したわけです。

 

小学生の時は憧れだった市内にマクドナルド

大人になるにつれ急激にランクダウンしたよなーって思いながら

少し悲しい気持ちになると共に

いや、小学生の俺、憧れすぎだろ…

と、なんともいえない気持ちになったので書いてみた次第です。